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EUはリトアニアの脱ロシア・エネルギー戦略を再現できるのか?

2022年2月のロシアのウクライナ侵攻でエネルギー安全保障の危機に直面した欧州では、ロシアへのエネルギー依存からの脱却が進められています。

そしてバルト三国のリトアニアは、ロシアのウクライナ侵攻開始後、EU諸国の中でいち早くロシアからの「エネルギー自立」を実現した国の一つであります。

そもそもリトアニアは、自国のエネルギー網をフィンランドやスウェーデンなど他のEU諸国のエネルギー網と接続するために多額の投資を行っており、これまで東側から受けていたエネルギー輸入への依存度を下げることを長く働きかけてきました。

そしてリトアニアは太陽光、風力、バイオマスエネルギーなどのグリーンエネルギーシステムにも投資し、EU諸国で初めてエネルギー自給を実現した国とも言われています。

このバルト海の小国のロシアのエネルギー依存からの脱却は、ヨーロッパ全体の勇気と回復力を証明するものだと評価する人も少なくありません。

リトアニアのエネルギー戦略の成功は、再生可能エネルギーの力と自立したエネルギー政策への移行を目指す国家が、参考とできる部分が多くあるのではないでしょうか。

リトアニアはエネルギーの孤島

1990年、リトアニアはソ連からの主権を宣言したが、ガスパイプラインと電力網はソ連とつながったままでした。

これに対し、当時のソ連はリトアニアのガス供給を大幅に減らし、石油の送出を完全に停止して圧力をかけてきたのです。

ザナナヴィチウス副エネルギー相は「リトアニアはいわば『エネルギーの孤島』となっていて、完全にロシアに依存した極めて不安定な状態だった」と当時の状態を表現しています。

さらに続いて、「リトアニアのエネルギー政策は、主にロシアからの自立を目指すことに重点を置いていました」とも語っています。

実際に独立以降も、ロシアはリトアニアに対してエネルギーをテコとして利用し、リトアニア国内は長くヨーロッパ全体で最も割高なガス料金の支払いを余儀なくされてきたのです。

しかしこのジレンマから解放されるために、リトアニアでは1999年にブティンゲに石油ターミナルを、2014年にはクライペダにLNG(液化天然ガス)港の建設を開始し、ついにロシア以外の国からガスを輸入できるようになったのでした。

そして、それ以来リトアニアのガス代は徐々に下がり、ロシアのガスプロムの圧力を弱めることに成功したのです。

ロシアから輸入停止

昨年4月、リトアニア政府は「ロシアのエネルギー脅威とウクライナ戦争」に答えるため、ガスプロムに依存するEU諸国では初めてロシアからのガス輸入停止を宣言しました。

そして翌月には電力などの輸入も停止し、ロシアからのすべてのエネルギー資源の輸入を断ち切ったのです。

その結果、リトアニアのガスターミナルを経由したバルト三国やヨーロッパ諸国へのガス輸送がエスカレートしていくことになります。

さらにリトアニアのガスターミナルの稼働率は、侵略前の50%から85〜90%へと上昇したといいます。

フォン・デル・ライエンEU大統領は9月の欧州議会で「バルト三国がロシア製燃料への依存度を下げるため、ターミナルや関連インフラに巨額の投資を行った」と強調しています。

さらに、「ロシア産エネルギーへの依存から自立することは、関連するコストに見合うものである」ということを強く提唱しています。

またリトアニアのマイユナス外務副大臣は、「ロシアはもはやリトアニアに圧力をかける能力を保持していない」と強く断言し、権威主義的・独占的なエネルギー供給業者に依存しないことの重要性を強調しています。

とはいえ、バルト三国はロシアの送電網に接続されたままであるが、2024年末にはEUの送電網に移行することが予測されています。

ロシアからの供給を絶ったとはいえ、リトアニアは未だ電力供給の約70%を輸入に頼っており、エネルギー自給率向上のため、再生可能エネルギーの導入拡大が課題となっています。

まとめ

リトアニアの脱ロシアとエネルギー戦略は、ロシアのエネルギーへの依存をいかに減らすかについて貴重な教訓を与えていると言えるでしょう。

EUはリトアニアの過去の例から学び、加盟国全体で同様の政策を実施することに可能と思われます。

しかし、EUがリトアニアの成功を再現するためには、地域特有の事情を考慮し、各国のニーズに合わせた政策を打ち出す必要があることは否めません。

また、エネルギー自給率の向上を目指すのであれば、再生可能エネルギーの利用拡大がカギとなると言われています。

リトアニアでの過去の行動を例にするなら、ロシアのガスへの依存度を下げつつ、それと同時に再生可能エネルギーをより多く導入することが有効的な手段の一つであると考えられるでしょう。

不安定な世界情勢の中、エネルギー資源の外国への依存を減らすための措置をとることは、EU全体にとってより安全な未来を実現するために必要なステップと言えるのではないでしょうか。